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| 松島さん、バケットで自腹を切る。 |

彼女はあたしの質問を聞き終えるとテーブルの下でまるで武器みたいに尖ったフェラガモを右足だけ脱いでストッキングに包まれた爪先をあたしの内くるぶしに重ねてアルコールランプの炎が映り込んだ瞳を琥珀色に揺らめかせながら囁きました。
「足コキっていうのは意外に奥が深いわよ」 彼女の爪先がゆっくりと螺旋を描きながらプリーツの裾に辿り着くとあたしはダークセピアの壁に埋め込まれたダウンライトで薄いオレンジに浮かび上がるエッチングガラスを見つめて波立つ心を紛らわすのが精一杯。津波のように押し寄せてきたかと思ったらくすぐるようなフェザータッチで焦らされて熱っぽいおませな吐息は唇をこじ開け、やっと耳に届く程度だったパイプオルガンの調べはあたしの中のいけない波長と激しく共鳴します。
「ま・・・松島さん・・・やめてくれないと・・・ひと潮噴くわよ」
ピッタリ閉じてた膝小僧が逆らう力を失って奥の院への通行手形を奪われ、つな村の桃色村長がいよいよもって水門を開けようとバルブの取っ手に手をかけたところで松島さんが笑いながら教えてくれました。
「足コキはオプションで二本、更にトッピングが一本。 女の子の水揚げは最高でも三本だけどそれなりにワザを極めたら 指名が倍増する大切なテクニックなのよ」
「トッピング?」
「うん、ルーソとかパンストとかね」
「変態さん御用達?」
「結構ニーズがあるのよ」
「手とかクチとかの方が気持ちいいんじゃないのかな?」
「Mなら仕上げは断トツで足コキ希望してくるわよ」
細いタバコに火を点ける松島さん。
「つなさん、空中に爪先で滑らかな円を描いてみ」
「こう?」
「もっとまん丸に」
「う〜ん、ムズいね、あたしには無理みたい」
「まぁ、ドM相手だから床にすっ転ばして 上から踏みつけるだけでもヒーヒー言ってるけどさ」
「それなら簡単だね」
「ルーソをトッピングする客なんて テクニックなんか求めてないから たどたどしい方が生々しいって喜んでるよ」
「・・・分る気がするわぁ」
「でも、きり揉みの基本テクを身につけるのは必須だよ」
「きり揉みってムズいの?」
「ぅうん、全然。 強、弱、中強、弱、の繰り返し」
「みちのくひとり旅を上手に歌う方法と一緒だね」
「見てな」
靴を脱ぐ松島さん。 真似して脱ぐあたし。
「こうよ、強ぉー、弱、中強ぉー、弱」 『ギシ ギシ ギシ ギシ』 (微かに歪む椅子)
「こう? 強ぉー、弱、中強ぉー、弱」 『ガタ ガタ ガタ ガタ』 (踊る椅子)
「こうよ、強ぉー、弱、中強ぉー、弱」 『シャラ シャラ シャラー』 (キュプラとストッキングが衣ずれ)
「こう? 強ぉー、弱、中強ぉー、弱」 『キュッポン キュッポン』 (内ももが股ずれ)
『ギシ ギシ ギシ ギシ』 『ガタ ガタ ガタ ガタ』 『シャラ シャラ シャラー』 『キュッポン キュッポン』 『ギシ ギシ ギシ ギシ』 『ガタ ガタ ガタ ガタ』 『シャラ シャラ シャラー』 『キュッポン キュッ・・・』
「お、おまたせしました」
オーダーしてたチョコレートマフィンとアップルティーが来ました。 タバコをもみ消したところへコップの水を傾ける松島さん。 移動した椅子を元の位置へ戻すあたし。 小走りで駆け去るウエイトレスさん。
「いつでもうちの風呂に沈みたかったら言ってよ、店長に話してあげるから」
『ガラガッシャン!』 (動揺で落下したあたしのフォーク)
「ちょっと、店員さん」 (松島さんの素早い気遣い)
「いいの、いいの」 (あたしのひらめき)
「まさかあんた」 (気づく松島さん)
「見てて、見てて」 (パンプスを脱ぐあたし)
「やるわね」 (松島さん、手でハートマーク)
『ファッサー』 (あたし、エアたばこ)
「あたしな、迷惑メールの中に足コキがどうのこうのって題名のヤツを見た時な、足コキの意味が分んなかったんで検索したらどうも足でナニを擦り上げもってヒーヒー言わすことなんだと突き止めたんだけどてっきり太ももあたりで擦り上げるんかと思ってたのよ」
「つなさん、それは素股だよ」
「す ま た? 何それ?」
松島さんは悪戯っこのような瞳をキラキラさせながら「見た方が早いわね」って高く掲げたライターをカチカチさせてウエイトレスさんにバケットを追加オーダーしました。
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Special Thanks
背景画像:気まぐれ堂様
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